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"ケニア" by アーネスト・ヘミングウェイ

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20世紀の巨人!ヘミングウェイ誕生から100年
まさかの未刊行大作発刊。サファリの闇を破る鮮烈な曙光の中にキーウエストのパパが蘇る!!

「吸うかい!?ハバナだよ」眠気と70`s・ディスコの暗闇の中で、銀のケースが一瞬光った。講演で来日したニューヨーカーのDrに似合いの細身のシガーを貰った。スモーカーの友人が「本当はアメリカではイケナイはずですがネ」と私に耳打ちした。ためしに吸ってみると葉巻の独特の香りにむせた。

そういえば何年か前に、ドアを開ければフワリと飛びのれそうな雲の中を飛んでメキシコへ行った。夜、ホテルから街なかへ出てヴァン・ヘーレンのサミー・ヘーガーの店でたまたまやっていた、彼のライブを見に行った。トイレには“ドラッグを吸うな!”とか“車を忘れて帰るな!”とか書いてあり少々ビビッた。店は港に入っていたアメリカからの豪華クルーザーの客でごったがえしており、開演まえに陽気なメキシカンが売りに来たビールを飲んでいると鼻を突く匂いが立ち込めてきた。周りの客の目のやる先に、太いキューバ葉巻をくわえたヘミングウェイばりの白髭の大男がテキーラをやっていた。立ち込めた紫煙が、ひとしきり落ち着き朝靄のように垂れ込めた頃合いにサミーのお約束“パウンドケーキ”で幕があけた――――。

閑話休題
本書の原題“True at First Light”が意味するものはなんなのか?すべては大地の闇の中より胎動し一条の鮮烈な光のように生まれる。そんな夜と朝のはざまに真実が見えるサファリが彼の憧れの地だ。

初章には、こう書かれている。 “常に不思議な国がある。子供時代の一部だ。我々はその国々を覚えていて、ときどき、眠って夢を見ているとき、訪れることがある。夜、そこは、幼かったころと同じように素敵な場所だ。我々はいまアフリカにいて、壮大な山のふもとにある沼地のはずれの小さな草原のキャンプのテントで暮らしている。そしてここにはそういった国がある。我々は年齢的にいえばもはや子供ではないが、いろんな意味で子供であることは間違いない。それなのに、子供という言葉は軽蔑的につかわれる。“と。
物語のハイライトは彼の妻メアリがクリスマスまでにお尋ね者のライオンを仕留められるかを中心に進行する。幾日もその機会は訪れず、期限がせまった、運命の日、黄昏がせまる頃。ヘミングウェイがライオンの退路をふさぎじりじりと距離をつめた、彼の妻は、初弾を発射するためにライオンにギリギリまで接近していた。もし仕損じれば妻や仲間は手負いの猛獣の餌食だ―――。
遂に引き金はひかれ、事は成就された。彼らは、ジニー・フラスコからストレートのジンを回し飲みし、祝杯をあげた。それはスペイン製の古びた弾薬嚢のポケットに入れてある銀のフラスコで彼と苦楽を共にしてきた。 “私は、もう自分をあざむくのをやめて、存分に飲んだくれることにしたんだ、噂が正しとすればチャーチルはわたしの二倍も飲むそうだが、つい先日ノーベル賞を受賞したばかりじゃないか、わたしも酒量を増やしていけば、ノーベル賞を受賞するかもしれないぞ“と美酒に酔う。
ライオンを仕留めた夜の祝宴の後、興奮冷めやらぬ彼はハンティングの記憶をなぞり、最悪のシュミレーションにならなかった経緯に満足しながらフィッツジェラルドの「魂の真の闇夜では、時刻は常に午前3時だ」という1節を思い浮かべていた。
“アル中でも、夜が怖いのでも、新しい一日を恐れるでもない者にとって、午前3時は最高の時間帯だ。恐怖とは子供の悪戯のようなもので、首をもたげてくるとわくわくするが、大人が相手にすることではない。他の者に責任を持つ立場にあるなら、恐るべきは真の切迫した危険で、それは反射的に感じる危険で、差し迫ると頭皮がちりちりするような感覚を味わう。そういう反応ができなくなったら仕事を変える潮時なのだ。“と、
その夜、彼は妙にリアルな夢をみた。夢の中で彼は馬になり、肩から上だけが人間だった。そして、体に変化が起きて人間に戻る瞬間までを経験した。深夜に目覚めた彼は冷たいシードルを喉に通したが、筋肉にはまだ夢の中で馬だった時の感覚を残していた。そこで彼は自分の言葉で魂とはどんなものか、表現しようと試みた。“おそらく、日照りにも枯れず、冬の寒さにも凍ることのない美しく澄んだ泉、それが魂に最も近いものではないか。”永遠にPureなものそれが彼の追い続けた魂なのだ。

本書のもう一方のハイライトは、彼に恋焦がれるカンバ族の娘ディバとの微妙な関係だ。それはアメリカ文明そのものである彼への恋情で、裏側には、遠い文明国が電気も通わぬ僻村の無垢な少女に与えた物質主義への無限の憧れへの弊害が込められている。彼女の粗末な部屋の壁には、“ライフ”誌から切り抜いた洗濯機、レンジ、ミキサーやマレーネ・ディートリッヒの写真がある。実は“ライフ”は彼のアフリカ行き直前に『老人と海』を一括掲載し、530万部を売りつくし、彼をアメリカンヒーローに決定付けた雑誌だ。
アフリカ滞在の最後に、妻メアリにベルギー領コンゴに行くことをねだられる。しかしその一件には触れられず、サファリ・キャンプの夜、テントの中でライオンの遠吠えを聞きながら眠るシーンで本書は終わっている。
このラストは彼が意図した結末か?それとも別のシナリオを考えていたのか?今となっては知る由もない。
事実は1954年1月24日ヘミングウェイ夫妻を乗せたセスナ機はコンゴ行きの途中、マーシソン瀑布の上空で墜落、死亡の記事が世界を駆け巡った。一命は取り止めたものの後遺症は生涯彼を苦しめ続けた。本書はその彼が発刊を見ることなく、約40年のときを経て彼の息子により生誕100年を記念して陽の目をみた大作だ。刊末をつづるのはそれぞれの読者の役目かもしれない。

そう言えば、今年、エディ・ヴァン・ヘーレンのガン発病や仲たがいやらで長らく中断していたヴァン・ヘーレンの全米ツアーが再開された。
― あの夜、メキシコの陽に焼けたのか、酒のせいか?少し太めになったサミー・ヘイガーは煙の中から登場した。白髭のへミングウェイは半袖をさらに肩までまくし挙げ毛むくじゃらの二の腕を突き出し何か言っている。“Mas Tequila!!” ―

独特の香りで、あの暑い夜のことを思い出した。“午前3時、魂の真の闇夜”気が付くと私は少し酔って、まだ細身のシガーの煙の中にいた。

True at First Light AUDIO

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