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そして、初めの道標(みちしるべ)はテラトーマの中で見つかった!

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たった一個の細胞が、ヒトのすべてを創造する。
そのチョットした迷い道がヒトを苦しめる。
ブレーク・スルーは根幹(ステム)にあるのか? そして、初めの道標(みちしるべ)はテラトーマの中で見つかった!


深夜、数十年ぶりにチャップリンの“独裁者”をみた。小生が初めてみたのは中1の頃(勿論リバイバル!)、悪友達と連れ立って“塩ジャケ”とアダ名された先生を誘って休日の有楽町に嬉々として出掛けた。長髪に度の強い眼鏡の代用教員は、先生というより下宿から追い立てられたホームレスといったさえない風貌で、無理をして喫茶店でモーニングセットを人数分奢ってくれた。
従軍の負傷で長年記憶を失っていたユダヤ人チャーリーと、彼にそっくりの独裁者ヒンケルヒットラーを皮肉った)がハンガリアン協奏曲をバックにドタバタを演じる。1940年とは微妙な時代の作品だ。ドイツ占領下のヨーロッパ大陸では勿論上映禁止、米国でも大統領から戦意高揚に好ましくないと釘を刺され不評をかった。
――近年発見されたチャップリンの台本のト書きには、自筆で、ステッキを手にしたチャーリーの画の横にこうある―――”I stand alone ! ”


閑話(それは)休題(さておき)−

医学を志した諸兄姉なら一度は手塚治虫ブラック・ジャックを手にされたことと思う。登場する助手のピノコの出生のエピソードは印象深い。“胞状奇胎(テラトーマ)”の中で各臓器そして脳までもが成長し、切除を引き受けたブラック・ジャックを翻弄する!‐‐手術と引き換えに各臓器の合成を約束し、ここにピノコが誕生する。
かつて、悪魔の仕業や子宮外妊娠の奇形と考えられていた “胞状奇胎(テラトーマ)” の解明は、本書では幹細胞や再生医療研究の原点と位置づけられている。
18世紀の博物学者、A・トランブレーは水中の緑色のインセクトの驚異的な再生力に目を奪われる。ギリシャ神話の怪獣になぞらえ『ヒドラ』と銘々した。20世紀初頭になるとイモリの再生能の研究から「胚の発生に取り残された」細胞が成長後も生き長らえているか、成熟細胞が胚の状態に戻り(脱分化)再び全能性を回復するという2説が生まれた。
そして現代、リロイ・スティーブンスは長年の苦労の末、テラトーマの発生率の高い129系マウスを創りこの分野の研究を飛躍させた。G・ピアースは多種の細胞の寄せ集めであるテラトーマは多能性をもつ一個の幹細胞から生じることを実証し、これまでテラトーマの中の細胞は全て悪性であるとされていたが、分化が進むと悪性化しなくなることが解り、未分化のものはEC細胞(胚性癌腫細胞)と名付けられた。しかしEC細胞も正常な胚に移植すると正常な成体へと成長する。環境により幹細胞の悪性化遺伝子が目覚め癌化することがわかった。 
つまり精細胞なり卵細胞の幹細胞が発生初期の段階で本来あるべき場所ではない所に迷入し、それが成人になってから癌化しテラトーマになるのだ。


初期の時点で幹細胞を最も臨床に近づけたのは骨髄中の血液幹細胞だ。今でも骨髄移植は白血病などの有効な治療手段だ。マウスの実験では骨髄移植後の早い時期に脾臓に細胞塊が発生する。血液幹細胞はこの中あるはずだが発見は困難だ。指数分裂を理解すれば、それがわかる「もしここに1ドルあったとして、それが倍になれば2ドルに。それがまた倍になれば‐‐ 20回繰り返すと100万ドルになる。」その100万ドル中から最初の1ドルを探すことは不可能に近い。
――クローニング「核移植」の新時代が到来した。遺伝的な双子を人為的に造ることは太古から挿し木をしたり株分けをしたりして行われてきた。クローンはギリシャ語の小枝Klwn(クルン)に由来する。しかし脊椎動物では細胞の核だけを抜き取り、卵細胞に移植し個体や臓器を複製しようというのだ。この際ドナーの細胞は理論上どの部位でもいいが成熟・分化度が高いほどその核が全能性にリセットされるのが困難となる。この技術は、2つの胚を組み合せ子宮に戻しキメラ(ギリシャ神話のライオン・蛇・ヤギの合体怪獣)化したり、わざと部分的に変異させた遺伝子の核を移植したノックアウトマウスを創ったりして遺伝病の研究を飛躍させた。このマウスの多くはスティーブンスの129系マウスの子孫達だ。


植物の実験では1950年代に一個の細胞から完璧なニンジンを造ることに成功している。「鍵は培養液にココナッツミルクを使用したこと!」そして今、動物〜ヒトの細胞で試されている(勿論ココナッツは使わないが)。 
1990年骨髄中には血液幹細胞の近縁の間葉系の幹細胞があることが解った。たまたまウシ血清を加え忘れた培養皿の骨髄細胞が神経へと分化したことに端を発し培養液開発レースが始まった。培養液の何が成体の細胞を初期化させ全能性を持たせるのかを調べている。今では細胞を皮膚=>脂肪、脂肪=>骨など内胚葉外胚葉の壁を越えて分化させることも可能になった。
さらに幹細胞研究は源流にさかのぼり胎児の中の将来卵細胞や精細胞になる予定の胚性生殖(EG)細胞が発見された。これで腫瘍のEC細胞、胚のES細胞、胎児のEG細胞、3つの由来の胚性細胞が研究材料にあがった。
1997年、乳腺細胞の核を初期化し卵細胞に移植しクローン羊ドリーが生まれた。ついにクローン人間誕生へのカウントダウンが始まったのだが、倫理的問題も多い。
臍帯血内の幹細胞利用は胚の幹細胞達が、ハマッテいる倫理・人道上の議論とは無縁だ。現在は利用できる治療範囲は骨髄と同じだが、未分化度が高いため免疫応答がなく今後に期待できる。そこに目を付けたヴァイアコード社は、1993年より将来本人や家族が必要なときに利用できるよう凍結保存サービスをはじめており、すでに2回の臨床例もある。本社はボストンのハードロックカフェの階上にあり、カフェのネオンサインは皮肉にも「ドラックと核兵器の持ち込み禁止」だ!階上には「核とドラック」(幹細胞と培養液)は今夜も運び込まれてくるに違いない。道標は意外と気づかない足元にある! チルチル・ミチルのパン屑(くず)だったり、姥捨て山の小枝(クルン)だったり!


――リバイバルのエンディング、強制収容所を脱出したチャーリーはまんまと独裁者と入れ替わり、6分間の迫真の演説が国中に響く“ユダヤも白人も黒人もすべての人間の平和と自由のために立ち上がろう!!”と――     
帰途に、興奮覚めやらぬ小生は悪友達と一計を案じ、駅の券売機の列で先生のくたびれた上着のポケットにそっと1人300円ずつ入れて別れた。百円玉で(テラトーマのように)膨れ上がったポケット事件は翌日には上級生達の知るところとなった――!!
――そして今宵、サケは源流をさかのぼる――小生のクタビレタ脳細胞を、ピノコとチャーリーが、ほんの少しだけ初期化(リセット)してくれた――!

幹細胞の謎を解く

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