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沈黙の惑星 by John E Brandenburg

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かつて火星には水と大気と生命があった?星空は語り、警告する。 人類は森を破壊し、大気を汚し、大量のCO2と気候変動をもたらした。 すべてのエピソードは一つに収斂する!“地球の死---”


”レイチェル カーソンと
カール セーガンに捧げる“
に本書は始まる。太古より人類が天空に懐いてきた壮大で叙情的な憧れは、今では消えいりそうな記憶のすみに、一度は宇宙少年だった事を思い出させてくれた。
今、渋谷の空にポッカリと穴が開いている。車窓からかつて銀色の威容を誇った五島プラネタリウムのドームの稜線を僕は無意識になぞっている。暗闇に巨大昆虫のようなシルエットのマシーンが仮想現実〜非現実へと誘う。黄昏から銀河そして神話の星々を映し出してくれた。――あの頃僕らは夢を見ていた。

本書は、宇宙への夢と、地上に山積する現実が交互に織りなすタランティーノのオムニバス映画の様だ。
72年、ペルセウス流星群からの隕石が先制核攻撃の警報を鳴らし北米上空をかすめた。一方、地上では人類による環境破壊、石油危機や大気汚染、CO2による温暖化が70年代のアメリカの日常的な風景を透して広がる。アポロ〜バイキング計画そして今に至る宇宙シンフォニー(交響曲)のオープニングだ。
地球には、月や火星表面の爆撃の跡さながらのクレーターが見あたらないが、これは大気による効果が大きい。隕石の進入角度が小さけれ。ば弾き飛ばされてしまい、大きければ燃え尽きてしまう。
研究者は、かつて火星が生命の存在しうる環境にあった、とする仮説の下に、バイキング探査機を始めとする画像解析や火星からきたとされる隕石や月の石の分析を続けてきた。これに対し冷戦時代の合衆国は「ルナマース」理論(生命などいない月のような火星)を政治的、財政的思惑から支持してきた。76年には、事実上有人宇宙生命探査は打ち切られ、「月のような火星」は人々の意識に定着し、その年のミスユニバースも異論なく!?決まっていった。
80年代当時、物理学者である著者はレーガン政権の戦略防衛構想の最前線で、ミサイル邀撃用のプラズマの研究をしていた。プラズマは、オーロラや稲妻の様に発光し、電気を通す、固体・液体・気体に次ぐ第4の物質の形態で宇宙ではほとんどがこの状態にある。著者は、年末夕食後のTV番組で、火星の表面に「顔」のように見える画像が放映されるのを観た。カール・セーガンの「コスモス」に出てくるユーシリオン(理想郷)のピラミッドのことを思い出し、さっそく「顔」の研究者に連絡をしたのが始まりだ。

著者の仮説はロマンチックだ。火星にも地球と同じような気候の時期があり生命がいたが、3〜10億年前の大型クレーターが多数出現する時期に大異変が起こり、死の惑星となったというのだ。この説のもと、90年には「シドニア仮説」という本も出版している。「火星もかつて生きていた。地球もうまく守っていかないと確実に死んでしまうだろう。二つの惑星の運命は繋がっているのだ。」と。

火星探査は惑星規模の砂嵐により難航した。もし、初期の火星が地球と同じ様な環境だったとしたら、この悪環境はなぜもたらされたのか?という疑問に立ち返っている。
30年代に米国中西部で発生した黄塵は大規模環境災害の先駆けだった。「常に浪費家だったアメリカ人は〜東部工業地帯を汚染し中北部常緑林を切り倒し南部の綿花とタバコ地帯は長期に渡る破壊的単一栽培で土壌を消耗させた。」
火星の大砂塵はあたかも地球の環境異変による「恐竜の絶滅」を連想させる。そして核戦争の後の煤塵による「核の冬」もまた然りだ。

環境問題が政府や企業の手によって取り組まれることはまれだ。フロンガスも市民による不買運動が使用禁止に結びついた。DDTの脅威をレイチェル・カーソン女史は「沈黙の春」で著わし、以降の環境ムーブメントに結びついた。
人は、元来目に見えない(大人になると特に都合の悪い)ことについて“ディスタンシング”する傾向にある。西洋諸国の石油消費文明の大気・環境汚染、CO2濃度上昇はそのいい例で、ライフラインや食糧を取り上げられそうになると戦争さえ辞さず、いまだ中東の戦火は絶えない。中国でも13世紀から石炭を燃やし続けている。環境担当者は「汚染がひどくなれば100日後に死ぬかもしれないが、暖房と食糧がなければ3日で死んでしまいます」と。
86年スウェーデン原子力発電所の警報が鳴った。だが、放射線レベルの異常は遠くチェルノブイリからもたらされたものであった。炉心はメルトダウン寸前で、放射能を含んだ黒煙はヨーロッパから北半球へ広範囲に飛散し、100万人以上が被害を受けた。
しかし、石油に替わるエネルギーは不可欠だ。アポロが月から持ち帰った地中サンプルから太陽風によりもたらされたHe3(ヘリウム3)というガスが発見された。He3は放射能がなく太陽の核融合で生まれたエネルギーが詰まっている。

「テラホーミング計画」地球に似た天体を作る、それは荒唐無稽なSFのように思われるかもしれない。しかし、人が空を飛ぶということでさえ、少し前まで正気の沙汰ではなかった。太陽は歳を取るごとに熱くなっている、水が凍りも沸騰もしない状態で人間が生活できる温度は限られている。10億年経つと、地球も金星の様に可住ゾーンから外れてしまう。その前に、火星の地中の水を利用し大気を創ろうというのだ。
大気同様に環境を左右する要素に“炭素のシンク”(蓄積)がある。熱帯林が山火事や焼畑、伐採によって危機に瀕していることはよく知られている。かつて地球には人類が生きていけないほどのCO2があったが、数百万年の期間をかけて植物は光合成をして大気からCO2を取り除き酸素と食糧を作ってきた。
それらはやがて枯れ、地中へ戻され、熱と圧力下で地中深く長い年月をかけて石炭や石油などの化石燃料になった。本来、森はゆっくり旅をする。しかし人類は地下に隠された秘密を掘り出し、エネルギー源として大気中へ炭素を戻してしまった。この速度は植物が炭素を取り除く速度より速く、森が燃えれば2重の損失となる。
海洋は森林とともに、CO2のシンクである。長期的にも90%が大海へ行き着く。人類はこの150年間、大気中にCO2を排出し続けており、その量は加速的に増加している。つまり炭素シンク(海や森)の限界を超えた分が増え続けているのだ。
恐竜にとっての世界の終わりは、隕石による気候変動によるとされており、地球では5回の種の大量絶滅が起こっている。隕石によるものとは別に、ペルム期末2億5千万年前に動物の90%が絶滅した。しかし隕石の衝突を示すイリジウム層はみつからず、海洋中のCO2シンクが暖められソーダ水のように一気に放出したという説がある。今後こうした制御不能の環境変異がCO2シンクの限界を超え突然“ソーダ水の死“もたらすというのだ。

緊急治療室では迅速な決定のため「トリアージュ」(分別選択)を行う。症状の深刻さは順位の基準になる。これはクリミア戦争ナイチンゲールが行った統計的報告がきっかけで戦病死率が激減したことに発する。

―――そして地球も病んでいる。
最後に著者は、沈み行くタイタニック「不沈船」地球号を救う提言を揚げ、幕を引いている。
核融合エネルギーの開発を促進する。現在、ウラン原発核分裂超新星爆発と同じ仕組みだが、不安定で炉心のメルトダウンや廃棄物の問題が残る。一方、太陽の様な恒星は核融合により水素やHeの同位体からヘリウムを生成する。D-He3核融合放射能が全く生じないクリーンなエネルギーだ。②電気自動車、ソーラーエネルギー開発する。③雨林保有国に酸素供給費を支払う。④宇宙開発を促進する。⑤石油に頼らないライフスタイルを実践する。⑥環境問題をトリアージュし、温暖化防止を促進する。など、課題は多い。
この惑星で人類は、夏休み最後の夜に宿題をやり残した小学生だ!

「――東の空が、明けの明星に追われる様に白み始めました。今朝の日の出は――」 深夜FMばりの声に夢から返ると、目尻に緑色の非常口灯が滲んで浮かんだ。ドボルザーク交響曲“新世界”が閉館を告げている。
あれから――僕らは少しは大人になれた・・・のだろうか!?

Dead Mars, Dying Earth

Dead Mars, Dying Earth