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ジャック・モーガンは、富と繁栄の超大国の医療システムによって消された!!日本の医療制度はどの道へ、迷い込むのか?

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“Yea〜h!”と或る日の午後デンタルレントゲンを見た診療台上の患者がHiタッチしてきた。小生はおずおずとゴム手を外し右手を出した。先日抜髄した歯の根充がピッタリ入ったのだ。シアトルの歯科大学を卒業したのち歯科医にはならず医療経済のコンサルタントなどを経て今は日本で仕事をしている彼、“ボクはコレが苦手でネ〜”とリーミングの仕草をした。近年は迷走する日本の医療システムも俯瞰し提言している。
閑話休題― 米国史上初の黒人大統領オバマ氏は昨年党大会で彼を支持する106年前に生まれたアン・N・クパーさんが見てきた米国の歩みになぞらえ、かつて信じられない困難を克服してきたこの国の歩むべき道は“Yes We Can!”、未曾有の経済危機を“Yes We Can!”、崩壊の続く医療や年金制度を“Yes We Can!”、国民自身で立て直そうと記憶に残る演説をした。が、いまだ地滑りは止まらずクライスラーGMと米国の繁栄を支えてきた巨像も崩れ落ちた。


著者が憂いている現在の米国の医療システムは、その巨大なコストとは裏腹に、国民に満足をあたえていないようだ。腎臓疾患を患った、個人事業主のジャックは
腎臓移植の順番を待っているうちに亡くなった。彼は保険に入ってないわけでも、税金を滞納したわけでも、医者嫌いだったわけでも、手遅れになるまで診察を受けなかったわけでもないのに――。どーも彼がスイスかどこかの同レベル・同環境の患者であったら筋書きは変わっていたらしい。犯人はだれなのか?容疑者は5人、医療保険会社・大病院(非営利をうたう)・雇用企業・政府・医療専門家たち。
彼ら5人にはそれぞれの言い分があることは著者も認めている。歴史的経緯や経済・人口・ニーズによりうまくいっていた時期もあったことは事実だ。しかし現在の破たんのタネはその頃から蒔かれていたのだ!気がついた時にはジャックは彼らの共同謀議により命を失った。ミステリーのひもを解くには、米国の医療システムと日本との違いを把握することが鍵だ。小生は本書をひっくりかえし監訳者の記した最終項をめくり始めた。


発端は2005年に実際に起こったカイザー保険に加入していた、腎移植候補者112名が亡くなりそのうちの25名は適応の臓器が用意されていたにもかかわらず移植は行われなかったのだ。この事件を元に著者は架空の被害者ジャックを登場させた。カイザーは元々高度な医療を行うために志のある人たちによって創設された。この医療システムが間違った方向に進んだのは、マネジドケア保険が商業化し、利潤のために医師に医療費の節約を強要するようになったからだ。そこで患者が無理なく質の高いサービスを得られるにはどうしたらいいのか?著者の案は先に挙げた5人の容疑者の介入を排し、直接患者(消費者)と医師との交渉を重視することを出発点に改革を進めることが必要だとしている。
その方策は医療保険料を雇用主や政府の手から直接患者(消費者)の手に移し(低所得の無保険者には政府が直接補助をし)医師と患者との間に介在する存在を排除し市場を機能させる力を与えることである。しかし改革により利権を失う現体制は当然障害となる。現体制下では、?保険会社は患者の満足度より、医師の選択・入院の承認・医療費に関心が高く、すべてにNOを突き付ける対応が常套手段になっている。?非営利をうたう大病院は規模の拡大に奔走し非効率化し患者にとってもリスクが高くなっている。?雇用企業は本来従業員に分配されるべき保険料を、税制優遇や運用のために利用しているにもかかわらず画一的な医療保険を選び患者の医療給付の選択の自由を奪っている。?政府や役人は市場を無視した、お仕着せの医療プランで患者の選択肢を狭めている。?医療専門家(政府にアドバイスする立場にある)はシステムがうまく回らないのは儲け主義の医者や、医療知識のない患者に情報を与えてもうまく使えず、賢い選択はできないせいだとしている。
1961年日本は国民皆保険を開始した、当時は比較的低い医療費で国民のニーズがほぼ満たされていると考えていた。しかしこれは過去のこととなりつつある。患者負担率のUPや老人保健の廃止などを見れば明らかである。医療費の対GDP比は米国の半分程度、主要先進国からも−2〜3%と最も低い。金額のみならず安全確保・患者権利擁護・医療情報公開など高い質への要求に拍車がかかり、すでに医師不足や病院閉鎖、訴訟の多い科目が敬遠される医療崩壊が叫ばれている。同じ皆保険導入国のカナダや英国でも高齢者への医療制限や長い待ち時間などサービスの低下が指摘されている。米国は65歳以上の高齢者と低所得者のみメディケアやメディケードといった、皆保険が導入されているが民間保険に比べサービスが劣悪であるとされている。


近年、歯科大学でも医療経済の講座を置くところがでてきており、小生の地区でも昨年、ある教授に講演をして頂いた。後席でズバリ聞いてみた。スカンジナビア諸国やシンガポールのような人口の少ない先進国の医療制度でなく、改革を成功に導けるお手本となる制度の国はあるのかと?「どの国も一長一短の問題がある、う〜ん、やはりジャパン・オリジナルで行くしかないでしょう!?」との回答、―――小生の頭の中では、Abbey Roadの1節が”Boy, you’re gonna carry that weight, a long time“と流れ始めた。誰もがなし得ていない道を、重荷を背負って改革を遂げるのは、オバマ政権か?それとも我が国の政治家か?
冒頭の小生の米国人患者は帰り際に “人生はイロイロで、それもまた楽しいデショ〜、今度ビールでもどう?”と島倉千代子張りの足取りで帰って行った。保険で根充をしている私と、別の道を選んだ彼とどちらが幸せで、どちらがこれから重荷を背おうのだろうか―!?

クインテッセンス出版 書評より

米国医療崩壊の構図―ジャック・モーガンを殺したのは誰か?

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