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新たなる医療世界の中心は日本か米国か!!ips『人工多能性幹細胞』は、人類の歴史を塗り変える!?

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世界の中心は何処にあるのだろう!?数年前の流行語にも、「世界の中心で〜を叫ぶ」と、あるが。
夏の終わりの長い人影がいきかう夕陽の中、Up Townに引っ越した知り合いのDrから届いたメールを頼りにNew York のStreetに降り立った。「アパートの名前かな!?」住所の末尾に“—PHA”とあるのに首をかしげながらケータイの画面を覗いていると、「何処行くの!!」と彼の新婚の奥さんの弾んだ声が背中を押した。
今は昔、歯医者のみならず医者も、すでに魅力ある職業ではなくなりつつある日本から遠く――


閑話休題― 一章では幹細胞の歴史がひも解かれている。1981年,英ケンブリッジ大学のマーティン・エバンスは、マウス胚のES細胞を培養することに成功した。1996年英国のイアン・ウィルムットはヒツジの胸腺細胞の核を卵細胞の核と入れ替えクローン羊「ドリー」を生み出した。通常おとなの細胞核のDNAはすでに発生・分化が進んでいて、本でいうと必要な部分のみページが開きやすく「ふせん」が付けられ、不要な部分は「のり付け」されている。ドリーの胸腺細胞ではこれを引きはがし、初期化(「Book Off」へもっていって、古本を新品同様にするように)したものだ。しかし、2003年ドリーはヒツジとしては短い一生を終えてしまい、「クローンは危険だ」と言う世論が巻き起こった。
1998年、米国のジェームス・トムソンはついにヒトでES細胞株を樹立した。しかし2001年、米国ブッシュ政権キリスト教的見地からこれを強く規制した。日本では2004年、不妊治療で余った受精卵よりES細胞株を樹立して増やした細胞のみを研究用にした「ES細胞バンク」を京大「中辻教授」らが設立した。しかし、ヒト免疫型や倫理の問題があり、その回避のため体性幹細胞研究も進んだが、培養が難しく全能性も持ち合わせてはいなかった。そこで登場したのが、成人の通常細胞のDNAを初期化して幹細胞をつくりだすipsという発想だ。


10年程前、留学からもどった山中伸弥は「患者さん自身の体細胞から人工のES細胞を作り出す」ことをテーマにラボを立ち上げ、まずマウスの体細胞に多能性を誘導する因子を探すコンピューター内実験(in Silico)で、「ハンティング(狩り)」をはじめた。 山中が用いたのは、(独)理化学研究所が作り上げた、マウスのES細胞と分化臓器に発現している遺伝子の公共データベースで、ES細胞で働いているが臓器では働いていない遺伝子の違いを選び出したのだ。これには、当時すでに知られていたOct3/4をはじめ、多能性に関係があると考えられていた遺伝子のほとんどが含まれていた。このときNanog(ナノグ)と呼ばれるES細胞維持に重要な因子が発見された。
 これらはいずれも「転写因子」と呼ばれるたんぱく質であった。早速コンピューター内実験から試験管内実験(in vitro)で試すと、マウスES細胞を分化させずに増殖させるLIFという物質を入れなくてもNanogがあれば多能性を維持できたのだ。
こうした手法で、LIFがない状態の培養でも多能性が維持できる因子をips細胞作製に有望な候補として24因子を選び出したのだった。
しかし24候補のうち、必要な因子が1コなのか2コなのか、どれとどれの組み合わせなのかはランダムで、実験を行うと途方もない時間と労力を要する。ここである逸話的な試みがおこなわれた、24因子から1因子を除いた23因子をまとめて成人線維芽細胞遺伝子に導入するという手法を繰り返し行うとOct3/4・Sox3・Klf4・c−Mycを除いたときのみ細胞は死滅した。そこでこの4因子のみを導入してみるとES細胞に似た細胞塊が出現したのだ。
実験はいよいよ生体内(in vivo)へとすすむ。この細胞塊を免疫不全マウスの皮下に移植したところ3胚葉全ての特徴をもつ奇形腫形成を確認し、遂にips細胞が完成した。次のターゲットはヒトips細胞だった。しかしこのときすでに米国のジェームス・トムソンがヒトips細胞3を作製し論文も秒よみ段階だと言うのだ!山中らは時差も考慮して大急ぎで論文投稿の準備にかかつた。
結果2007年11月20日同着でそれぞれ「セル」と「サイエンス」のオンライン版で発表された。
時期を急いだため問題がいくつか残り、因子にc−Mycなどのガン関連因子も含まれておりヒトでの使用を危ぶむ声もあったが、発表より10日後には、実験手技を工夫することでこれを除く残る3因子のみでもヒトips細胞が作製可能となったのだ。また遺伝子導入にレトロウイルスをもちいるため導入率が低く何処に入るかわからない、そこで導入率がよく効果が一過性のアデノウイルスが注目され応用は時間の問題だ。さらには3因子の化学構造を調べ、これを化学物質に置き換え低分子化して副作用なく応用する研究もすでに始まっている。
著者はips研究の今後の行方を後半2章にわたり力説している日米の研究環境の違いや、縦割り省庁間による弊害と、山中が望んでやまない臨床応用の道はけわしい。どうも米国チームのほうに分が有りそうだが、山中らも「ips細胞コンソーシアム」構想を立ち上げ巻き返しをはかっている、はたしてレースの行方は―――――!?


――摩天楼の夕陽の中、「2週前に引っ越したの!!」と笑顔の彼女に不意をつかれ目の前のビルのエントランスになだれ込んだ。「apt PHAて、ここのこと!?」まの抜けた問いに、エレベータの鍵を開けボタンを押した彼女の指先には、こうあった” Pent House A ―!?” 昇りつめた扉が開くといきなり部屋の中にニヤケタ友人のDrが暖炉の前に立っていた。サンタもスーパーマンも舞い降りられるセントラルパークを望む最上階の――「確か、彼は僕と同業のはず?なんだが!」少なくとも世界の中心はうちの近所では、なさそうだ!?

クイント08

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